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三月、学生たちにとって大きな節目の季節である。新たな環境に飛び込む期待と不安。苦楽をともにした友人たちとの別れを惜しみながら迎える卒業式。体育館に響き渡る校歌を聞くと、不思議と胸に込み上げてくるものがある。
学生時代から時が経ち、校歌を歌ってほしいと言われたとき、すぐに口ずさめる人もいれば、「出だしは何だった?」と戸惑う人もいるだろう。それでも、誰もが歌詞の一節くらいは記憶のどこかに残っていて、ふとした拍子に思い出し、気づけば、口をついて出てくるといった経験を持つ人も少なくないはずだ。
校歌には、その土地の風景や教え、未来への願いが込められていることが多い。近くの山や川、広がる田畑、澄んだ空など、歌詞の一つひとつに、学び舎を取り巻く地域の姿がうたわれ、これから巣立つ者にとって、心の原風景となるように作られている。子どもの頃は意味を深く考えずに歌っていたが、大人になってあらためて向き合うと、地域の誇りや願いが丁寧に描かれていることに気づかされる。
入学式で初めて耳にした日から、文化祭、卒業式まで、節目ごとに繰り返し歌われることで、校歌はそこで過ごした時間と結びついていく。ふと耳にした瞬間、教室の窓から見えた景色や、友だちと過ごした日々が鮮やかによみがえる。過ごした時間は違えども校歌は世代を超えて共有できるものでもある。同じ歌を歌えるというだけで見えない絆が生み出されることも多い。同窓と聞くだけで、どこか親しみを感じるのは私だけではないだろう。
もし機会があれば、ぜひ母校の校歌を思い出し、口ずさんでみてほしい。そこには、どのような思いが込められていたのか、そして、その歌は何を思い出させてくれるのか。時代が移り変わり、学びの形や価値観が変わっても校歌に込められた願いはきっと変わらない。かつて見送られた者が、いまは見守る側となり、校歌に込められた願いも、世代を超えて受け継がれていくのである。